2004年04月15日
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男の子と女の子についての一対の詩

Written By: 遠野秋彦連絡先

 時として相矛盾する気の迷いに囚われることもある。

 気の迷いの内容はいつも同じというわけではない。

 バリエーションが豊かであるというだけでなく、疲れ果てた頭が見る朦朧とした蜃気楼のようなものもあれば、具体性があって行動すれば実現できそうなものもある。

 何気なく、ファイルサーバを見ていたら、2001年6月13日のタイムスタンプの付いた、このような文章に気付いた。

 いつもなら、気まぐれに訪問しては、気が付くと居なくなっている気の迷いの1つが、珍しく文章として結晶化していた。

 たまには趣向を変えて、こんなものをお見せるのも一興であろうか。

 念のために付記しておくが、これはオータムマガジンの「小説の洞」に掲載されるが、中身は小説ではなく、詩である。

女の子 §

 女の子は素敵だ

 優しくて

 やわらかくて

 いい匂いがする

 夢や希望を

 胸に抱き

 はつらつと生きる

 君たちは

 社会から

 祝福されている

 経済までも

 君たちに注目し

 君たちのトレンドは

 社会のトレンドになる

 ときとして

 君たちを食い物にしようと

 悪徳な者達がすり寄るけれど

 不幸に陥る姿さえも

 人々の涙を誘う

 悲劇のヒロイン

 そうだ

 世界はきみたちを

 中心にまわっている

 人々は注目し

 きみたちは当然のように受け止める

 そんな君たちになってしまいたいと

 憧れる僕たちは

 間違っているのだろうか?

男の子 §

 細くて

 しなやかで

 なめらかな肌を持つ

 まるで、女の子のような君たち

 無垢で

 純情で

 裏も表もない

 君たちは、女の子より素晴らしい

 さあおいで

 君たちにふさわしい

 めくるめく世界が

 ここに待っている

 女の子の服を身にまとい

 顔に薄化粧を乗せ

 男たちを誘いに行こう

 すてきな時間は

 君たちのもの

 恋が芽生え

 午前0時

 君たちは服を脱がされ

 魔法は解ける

 君たちは怯えるだろう

 女の子ではないのに愛されていたから

 だけれども

 それは君たちの勘違い

 男の子は素敵

 女の子よりも素敵

 それは歴史が証明する

 伝統ある真実

 さあ街へ繰り出せ

 君たちは

 都会の天使

(遠野秋彦・作 ©2001 TOHNO, Akihiko)

野暮な蛇足 §

 野暮な蛇足を付け加えるならば、現実に存在する子供達を性的関係の対象として見ることは間違いであるし、男の子がそのような立場であろうとするのも間違いであると付記しておく。この詩は男色の肯定でもないし、著者が性倒錯的な趣味を持っているという告白でもない。ジェンダー境界の曖昧な領域に、ふと目を離した隙にいともあっさりと消えてしまうような、はかないファンタジーを見るという以上の意図や行動を表現したものではない。

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遠野秋彦